腱の沈着物

今回は、腱の部分に沈着物が溜まっていくと、なぜ痛み、筋肉の過緊張などが起きるのか、私なりの考えを書きたいと思います。

まず筋肉の説明ですが、筋肉は力を入れないと完全に弛緩していると思っている方も多いと思いますが、実は常にある程度の緊張状態を維持しています。

これを筋のトーヌスといいます。

ちなみに、単にトーヌスという言葉だけですと、自律神経系全般の持続的な活動を意味します。

もし、この筋トーヌスが無ければ人の体は、糸の切れたあやつり人形のようになってしまうでしょう。

また、筋トーヌスが通常より亢進すると硬くこわばった筋肉になり、肩こりや腰痛だけでなく、収縮した筋肉が神経、血管、リンパ管を圧迫してその流れを妨げ、からだに様々な問題を引き起こします。

「筋と腱」の回で書いた時に、筋肉の中にある筋紡錘というものについて、書きましたが、ここでもう少し詳しく説明したいと思います。

がんばって、ついてきて下さい。

もう一度、以前に使った図です。

 

 

 

 

筋紡錘を開くとその中には、ごく小さな筋肉の線維が入っており、これを錘内筋と呼びます。

普通に筋肉が力を発揮するために使われる筋肉は、筋紡錘の外にある筋肉ということで、錘外筋と呼ばれます。

この錘内筋には2種類の知覚神経の線維がついており、中心部にぐるぐると巻きついているのが、らせん終末(Ia線維)、その外側にあるのが散形終末(Ⅱ線維)と呼ばれます。

錘外筋はそれ自体では、筋のトーヌスを決めることができず、常に筋紡錘からのフィードバック制御により、筋のトーヌスが決定されます。

もし、筋紡錘が何らかの理由により引き伸ばされると、知覚受容器であるらせん終末から出される信号が増え、その信号の増加に比例して錘外筋は収縮していきます。

つまり、なんらかの理由で筋紡錘が引き伸ばされると、その筋肉全体が勝手に収縮してしまうのです。

腱の部分の沈着物は、腱の表面だけでなく、線維のあいだ、さらにその奥まで蓄積していきますから、その結果筋紡錘の張力が増加し、それにともなって筋肉全体を常に緊張した状態にしてしまうのです。

そして、この筋肉の異常緊張が骨格が歪んでしまう大きな要因の一つです。

ですから、この沈着物を除去しなければ、いくらがんばってみても、筋の異常緊張を取り除くことはできませんし、この沈着物が無くなれば嘘のようにそれまでカチカチに緊張していた筋肉も緩んでしまいます。

そして、さらに腱周囲への沈着物が増加すると、最終的にはゴルジ腱器官のIb抑制が起き、筋肉は完全に弛緩した状態になってしまいます。

この状態が各種筋無力症の最も大きな要因であると、私は考えています。

また、腱の部分を押した時の圧痛に関してですが、痛みというのは体に備わっている数多くの知覚受容器のうちの、自由神経終末というタイプのもので感じています。

関節の周囲や、腱の部分は他の部分と比べると、力がかかったり、動かしたりということで、位置を確認する固有感覚受容器というものや、触覚、圧覚、痛覚などを感知する知覚受容器が多く配置されています。

腱の部分は、特に力がかかる部分ですので、保護のために痛みを感じる自由神経終末も多くなっているのではないかと思います。(確認はしていませんが)

 

ですから、腱の部分に沈着物が溜まると、あれほどの強い痛みを発するのだと思います。

この沈着物は時間が経つほど凝集して硬くなっていくので、問題(事故、転倒など)が起きてから何年も経っているものは、取り除くのにもある程度の時間がかかってしまいます。

ですから、問題が起きてからの期間が短いほうが、また、より若い人のほうが短期間で元に戻すことができます。